2001.2.1 「HERO」の人物日記〜脚本家の災難 Part1
今週の事件はストーカー殺人。現場のマンションの部屋から逃げ道はないと思われていた。が、キムタク検事が朝まで現場でだらだらしてると、早朝、
ベランダの下に荷物配送車が止まった。すると車の屋根に血痕が!犯人は車の屋根に飛び降りて逃走したらしい・・・とまあこのように、キムタク検事が捜査すると、なぜかいつも事件解決の鍵がむこうから降ってくる。じつに安易だ。
しかし、それもそのはず、キムタク検事が事件を解決しようとするとき、時計の針はたいてい9時45分頃を指してるのだ。あっつーまに解決しないと間に合わないのだ。そしてなぜそんなに時間がおしてるのかというと、脇役の検事たちがリンゴをむいたり、おちゃめな捜査をしたりして視聴者を楽しませている時間が長いからだ。古畑任三郎は「正味40分で解決しなければならないのですから大目にみようではありませんか」と言っていたが、キムタク検事に与えられた解決時間は5分もないのである。彼が速攻で事件を解決しているとき、カメラのこっち側では「巻き」の合図が出ているにちがいない。
そう考えると、一見鮮やかに事件を解決しているように見えるキムタク検事も、じつは意外にも脚本的には冷遇されているのではないだろうか。そんな思いがしたなーはるは、こんな仮説をたててみた。
「HERO」の人物日記〜脚本家の災難 by なーはる
_ 2000年1月 フジテレビ 編成制作本部 _
「やりました!来年の1月クールのキムタクと松たか子のスケジュールを押さえました!」
「なにっ!?でかしだぞ君ぃ〜!」
「やはり月9でいきますか?」
「もちろんだとも」
「脚本はどうしましょう?」
「そうだなあ。今キムタクはTBSでメロドラマ*をやってるから、違う傾向のドラマでいきたいねえ」
「なるほど。では検討に入ります」
*TBSのメロドラマ・・「ビューティフルライフ」のこと
_ 2000年7月頃 フジテレビ 編成制作局 第一制作部 _
「すみませんが、新人脚本家から脚本を見てほしいとの依頼があったんですが」
「持ち込み?めずらしいね」
「ちょっと変わった人で」
「ふぅん。で、どんなストーリーなの?」
「青森から出てきた検事が、実はたいへんな切れ者で、地検の検事たちに影響を与えつつ自分も成長していく、というような話です」
「で、タイトルは?」
「『いなかっぺ検事』です」
「おいおい、まじかよ?」
「まじです。で、キャストは、地検のボスに角野卓造、検事に阿部寛、大塚寧々、勝村政信、事務官に松たか子、小日向文世、八嶋智人・・」
「ちょ、ちょっと待った。なんでもうキャストが決まってるの?」
「いえ、決まってるわけじゃありません。脚本家が希望してきただけです」
「常識ねえなあ*」
「新人だからしかたありません」
「で、主役は誰なのよ?」
「えなりかずきです」
「ぷははは!まじかよ」
「まじです。たっての希望らしいです」
「信じらんねえな。その脚本家なんてやつ?」
「名春太郎です」
「え?」
「なはる・たろう」
「ふーん、変わった名字だな。ちょっとそいつの脚本見せてみろ」
*常識・・ふつう脚本家はキャスティングには口を出さない。よっぽどの大物脚本家でないかぎり
_ 2000年9月頃 フジテレビ 編成制作局 第一制作部 _
「でね、君の脚本が採用されることになったから」
「ほ、ほんとですか!?」
「しかもね、来年の1月クールの月9に決まったんだよ」
「月9!?でも僕の脚本はラブストーリーじゃないんですけど」
「うん。だからね、ちょっと主役の人物像を変えてもらいたいんだよね」
「は?」
「実はね、キムタクでいくことになったんだよ」
「ええっ!?」
「すごいだろ?君ぃ。キムタク主演の月9に書かせてもらえるなんて、名誉なことだよ〜」
「で、でも、えなりかずきは?」
「あ、彼はムリ」
「なぜですか?」
「同じクールの『渡る世間は鬼ばかり』に出るから」
「そ、そんな。もっと先のクールでもいいから、ぜひ彼に」
「もう決まったことなんだよ。そのかわり他のキャストは全部君の希望通りにしたから」
「でも」
「橋田ファミリー*から角野卓造さんをひっぱってくるの大変だったんだよ〜。まさか、えなりかずきまでひっぱってくるわけにいかんでしょう」
「でも」
「いいかい名春くん。脚本家はプロデューサーやディレクターのニーズにこたえて、いかようにも対応できないといけないんだよ」
「はあ」
「書き直しにつぐ書き直し。それができないとやっていけないんだよ」
「はあ」
「そんなわけだから、ひとつがんばってくれたまえ」
「はあ・・」
「あ、それからタイトルはね、キムタクに『いなかっぺ検事』じゃまずいから、『HERO』になったから」
「えっ」
「キムタクらしく、かっこよく書いてよね」
「・・・・・」
*橋田ファミリー・・脚本家橋田スガコ大先生のドラマ(「渡る世間は鬼ばかり」など)に出演している俳優たちのこと
(次回につづく)
2001.2.4 「HERO」の人物日記〜脚本家の災難 Part2
前回につづいて、「HERO」についてのある仮説をお送りしています。前回を読んでない方は「こちら」からどうぞ。

_ 2001年1月8日 「HERO」オンエア _
第1話の放送を見ながら、複雑な心境の新人脚本家、名春太郎(なはる・たろう)。
なにしろ、主人公の久利生公平はホントはいなかっぺの検事で、えなりかずきを想定して書いたのに、キムタクにすりかわってしまったのだ。しかも「キムタクはあのまんまでいくから」という上の指示により、脚本の書き直しは大変だった。苦しまぎれに「事件にでかいも小さいもない*」みたいな、どっかで聞いたようなセリフを久利生検事にしゃべらせてしまい、自己嫌悪に陥った名春太郎。なのに、第1話は視聴率34%をたたき出したのだ。あーあ。
そしてそんな名春には、さらに厳しい試練が待っていた。なんと、第2話以降の脚本はベテラン脚本家に担当させるというのだ。いくら新人はリスクがあるとはいえ、そのアイデアだけいただいてポイとは、なんちゅーアコギな世界であろうか。
*事件にでかいも小さいもない・・「踊る大捜査線」の青島刑事(織田裕二)のセリフ
_ 2001年1月15日第2話、22日第3話オンエア _
しかし、おいしい思いをしてるはずのベテラン脚本家、田算次郎(たさん・じろう)も、実は名春太郎と同じような苦労をしていた。
名春の作り出した脇役キャラクターに関しては、リンゴのシーン、大使館の招待状のエピソード・・・面白いように筆がすすむのだが。キムタクの場面になると筆がぴたっと止まってしまうのだ。「キムタクはキムタクらしく」と上から指示されているから、いじれない。だから書いていてもつまらない。いきおい、脇役の検事たちのシーンに力が入って長くなってしまい、おっといけねー。これじゃキムタク検事の出番がねえなあ。しょうがねえ。ホントはやりたくないけど、ちょっとくさいセリフをしゃべらせてとっとと事件を解決させとくか。
そしてそれでも30%の視聴率をたたき出しちゃった第2〜3話。田算次郎も自己嫌悪におちいったのだった。
_ 2000年1月末 フジテレビ 編成制作本部 _
「やりました!HEROの視聴率が4週連続30%の新記録です!!」
「なにっ!?まじか!?」
「まじです。いや〜戦略がみごとに当たりましたね!」
「しっ、その話は他ではするなよ」
「わかってますって」
「しかし、ドラマの中に2つのドラマを存在させる、ってのはいいアイデアだったな」
「ひとつはキムタクが事件を解決するドラマで、
もうひとつは脇役たちが視聴者を楽しませるドラマ」
「で、脚本家には後者に力をそそいでもらい、前者は安易でもぜんぜんオッケー」
「でも、キムタク主演となれば、どうしたって脚本家はキムタクの方に力を入れちゃうから」
「だから、脇がよく書けてる出来合いの脚本を採用して、主役だけすげかえたってわけよ」
「でもって、『キムタクはキムタクらしく』という指示で、キムタクをいじれなくすると」
「だって出るだけで20%とれるんだから、キムタクは床の間に飾っときゃいいんだよ」
「でもって、脇の話の面白さで10%プラスして合計30%」
「まさに合わせワザだよ、君ぃ」

「そう考えると、過去キムタクでもあまり視聴率をとれなかった『ギフト』はキムタクの使い方をあやまっていたんですねえ」
「そうそう、『ギフト』も『HERO』に負けないくらい良い脇役をそろえていたのに、なぜ30%いかなかったのか」
「それは脇のエピソードが甘かったからですね」
「そうなんだよ。キムタクはおいといて、もっと脇役に面白いシーンをやらせりゃ、キムタク効果+脇の話の面白さで30%いったのに」
「実にもったいなかったですね」
「我々も過去の教訓から学んだというわけだよ」
「すると、お仕事ドラマにおけるキムタクは、これからもHEROパターンでいくんですかね」
「ま、キムタクの美貌がおとろえるのと、このパターンが飽きられるのと、どっちが先か、ってとこかな」
「とかいいながら、次回はさらに視聴率アップを狙ってるくせに」
「あれ?わかった?」
「そんなの、松たかとの恋愛を匂わせた予告を見りゃわかりますよ」
「へへへ。キムタク+脇役エピソードに恋愛をふりかけたらどうなるか、っていう壮大な実験なわけよ」
「なにいってんですか。欲の皮がつっぱりすぎですよ」
「でもさあ、もしかして40%いっちゃったりして〜」
「そしたら、社長賞もんですかね」
「うほほほほ!」
「でも、上の図を見ると、同じドラマを見ていても、見ている人の気持ちはバラバラだってことが、よくわかりますよね」
「ま、まあな」
「本当は、2つの円がぴったり重なるのが、理想のドラマなんじゃないすかね?」
「き、君!そりゃーそうだけどね」
「でもって、重なったところが30%だったら最高ですよねえ」
「う、うーん・・・・・」
(完)
*「HERO」の人物日記〜脚本家の災難はフィクションであり、実在のテレビ局、番組、俳優、脚本家とは何の関係もないことをお断りしておきます
・おまけ
_ 2001年1月29日 第4話オンエア _
すっかり自分の手をはなれた「HERO」を見る名春太郎。
第4話のラスト。キムタク検事が殺人現場のマンションで朝まで過ごし、早朝コンビニの車の屋根に血痕を発見する場面。もしも、えなりかずき演じる久利生検事だったら・・・名春太郎は得意の妄想モードに入っていった。
(↓ここより妄想モード)
久利生「下の割烹料理屋で作ってもらったお弁当、一緒にどだべべが?
」
雨宮 「久利生さん、この部屋に朝までいるつもりですか?」
刑事 「捜査は終わってるのに居座ってどうするんだ」
久利生「すこす知りたいことが」
刑事 「だいたい、君はなんで検事になったんだ?」
久利生「大学1年のときに司法試験に合格したからだず」
刑事 「1年のときに合格!?君いくつなの?」
久利生「20歳だず」
雨宮 「そ、そんなに若かったんですか!?」
刑事 「あんた同僚なのに知らなかったわけ?」
久利生「わし、老けて見えるからしょうがないだず」
雨宮 「でも刑事さん、張り込みってこんな感じなんですか?退屈なんですねえ」
刑事 「そりゃそうさ」
久利生「花札やりはねえがらなか?」
雨宮 「ちょっと久利生さん!?なんで花札なんか持ってるんですかっ?」
刑事 「しょうがねえ。つきあうか。花札ならちっと腕に覚えがあるんだ」
雨宮 「け、刑事さんまで。わかりました、バカっ花*じゃないなら私もやります」
そして、「こい!」「こい!」*という声が朝までつづき、
久利生「そろそろ時間だず」
雨宮 「久利生さん!逃げる気ですか!?」
刑事 「勝ち逃げ許さんぞ!!」
と、その時、割烹料理屋の前に車が止まる音が。ベランダに出た久利生をあわてて追う雨宮事務官。そんな久利生たちを見て、刑事は、はっとしたような表情になり、これまたあわてて玄関から外へ飛び出して行った。
雨宮 「久利生さんすごい!料理屋でお弁当作ってもらったときに、配送車が朝来るのを聞き出していたんですね!?」
久利生「こっから飛び降りられるがな?」
雨宮 「やってみてくださいよ」
久利生「よいしょ・・・うわーーっ!!」
雨宮 「久利生さん、なにぶらさがってるんですか!」
久利生「降りられねえー!!」
雨宮 「何言ってるんですか!犯人だって降りたんだから、さっさと降りてください!」
そして雨宮事務官は、ベランダの手すりにしがみついている久利生検事の指を冷酷にも1本1本ひきはがしていくのであった・・。
(名春太郎、妄想モードに入ったまま・・・完)
*バカっ花・・花札の一種で、あまりゲーム性がない「花合わせ」のこと
*こいこい・・花札の一種で、勝負の成功失敗により得点も失点も倍増するハイリスクハイリターンなゲーム
*久利生検事の青森弁・・青森弁変換サイトが見つからなかったので、山形弁変換サイト「んだんだ君!」を利用させていただきました
2001.2.10 ストロベリー・オンザ・ショートケーキ
冬ドラマレビューで、今クールの一押しはこれ、と書いた「ストロベリー・オンザ・ショートケーキ」。けどその後、深キョンの前でいきなり脱ぐ窪塚君とか、バイト先でチェリーを失うタッキーとか、「青春」の匂いがプンプンな野島脚本に、恥ずかしがり屋のなーはるは、顔を赤らめて少々引いてしまっていた。
それと、やや冷めてかけてたもうひとつの要因はセリフ。だって若者の会話ってヒネリがなくてものたりないんだもん。不思議少女深キョンが時々はっとするようなセリフを吐くことはあるけど。無邪気な子供が思ったまんま言っちゃいましたーって感じで、言われたほうも面食らうって感じぃ。
てな調子で、テンションを無理矢理あげようとしてもあがるはずもなく、「若いもんにはついていけましぇーん」状態だった私。
ところが、昨日の第5話は違ってた。「おっ」と思うようなシーンがあった。昨日は、窪塚君をふって以来あまり出番のなかった石田ゆり子先生が再登場して窪塚君とこんな会話をしてみせてくれたのだ。
「私のこと何でもわかっているみたいに言うのね」「何でもわかってるよ」「じゃあ今私は何考えてる?」「婚約者と別れようと思ってる。愛してないのにお見合い相手と婚約したのは、反作用の法則だよ。本当に愛してる人を忘れるための。事故で死んだ昔の恋人を忘れるための。当たりでしょ?」「はずれよ。愛してる人は生きてるの。それは・・・あなただから」きゃーコレよコレ!どうも今までつまんないと思ったら、こういう大人の会話がなかったからなのよ〜。
てなわけで、がぜん面白くなった「SOS」。だって窪塚君は、この会話の前に深キョンと寝ちゃってたんですよっ!やべえ〜!ε=ε=ε=┏(; ̄▽ ̄)┛
それにしても、窪塚君は年上の女といるのがとてもサマになる。年下の深キョンには、「よしよし、いい子いい子」みたいにお兄さんな窪塚君だけど、ゆり子先生の前では、無邪気で大胆で子供のように甘えてスネて、でも大人びて・・・ああ、なーはるけなすのが専門なため、誉め言葉が上手く出てこないのがもどかしいわん。
しかし、そんな窪塚君に比べてワリを食ってるのはタッキーだ。窪塚君がゆり子先生と上のようなオトナの会話をしてるとき、タッキーは内山理名とラブホに行ったけど上手くいたせなかった、みたいに明らかに差をつけられてるのだ。タッキーが野島ドラマに出ると聞いたとき、近親相姦、男色、無理心中などの変な目にあわされないか心配したなーはるだったが、まさか損な目にあわされるとは。
それに、2人をつい比べてしまうのは手足の長さ。「魔女の条件」で手足の長い松嶋菜々子先生と共演した時は気にならなかったのに、窪塚君と比べちゃうのは年が近い同性だからか。さらに窪塚君は、ゆり子先生に「あなただから」と言われた翌日、さっそく家に押しかけて、電話中の先生を抱きしめるわ、服のボタンをはずすわ・・・あと数年たってタッキーが窪塚君の年になった時、こんな風になれるかしら?いや、なってほしくない、いや、なってほしい、などと複雑な心境のなーはるお姉さまなのであった。
2001.2.21 ドラマとスパゲティ Part1
私が高校生だった頃のこと、クラスの女子たちがお弁当を食べていると、通りがかった一人の男子がこんなことを言った。
「人間ってさ、食べてる時とトイレ行ってる時が一番汚いんだぜ」
楽しいお弁当を台無しにしたそのアホな男子が、しばらく女子全員に口をきいてもらえなかったのは言うまでもない。しかし今になってみると、彼の言葉はある意味真理をついていたなあ、と思うのである。少なくともドラマの世界では。
グルメ・ドラマや、のべつまくなしに食べている大家族ドラマは別として、ドラマでは意外とモノを食べるシーンが出てこない。なぜかというと、ひとつは、その男子の言ったように「食べることは美しくない場合もある」からで、ふたつめは「食べるとセリフがしゃべれない」からで、もうひとつは「ストーリーに関係ないシーンはとばされる」からであろう。それだけに、ドラマにおける食べ物はわけあって登場していることが多いので、おろそかに見過ごしてはいけない。

ドラマに一番よく登場する食べ物は、ごはんとみそ汁をのぞけば、ラーメンだろう。「ロンバケ」の山口智子とキムタクも、「魔女の条件」の松嶋菜々子とタッキーも、「BL」の常盤貴子とキムタクも、初めて一緒に食べたものはラーメン(と餃子)であった。
なぜドラマは美男美女にラーメンを食べさせたがるのだろうか。それは、まず親近感を視聴者に抱かせるためであり、次に「この2人はまだお互い何とも思ってないんですよ〜」という状況を知らせたいからであろう。ラーメンの「庶民的な」「気取らない」イメージを利用して、ドラマは視聴者にいろいろなメッセージを送っているわけだ。
けれど、そのポピュラーさゆえに、あらゆるドラマに登場しつくしたラーメンは、ドラマ研究の対象としてはあまり面白い存在ではない。それよりも、なーはるが気になるのはスパゲティである。なぜ今スパゲティなのかというと、今クール、スパゲティの使われ方の興味深い例を見つけたので、日記に書いちゃおっかなーと思ったわけである。でも、どうしてそんなにスパゲティに注目してるのかといえば、なーはるがイタリア料理研究家だからである。(大まじめに大ウソつくなって)
しかし、スパゲティの使用例を紹介する前に、やはりその歴史について知っておくことが必要だろう。というのは、日本におけるスパゲティには、同じ名前でも全く性質の異なる2つの存在があるからだ。それは例えばケータイでいうと、初代の端末と次世代端末くらいの違いがあるのである。
初代端末じゃなくて初代スパゲティ、それはミートソースとナポリタンであった。信じられないことだが、我が国にはこの2種類しかスパゲティがない時代があったのだ。その頃は「アルデンテ」という言葉もあるはずもなく、スパゲティはやわらかく茹でられ、まさに「洋風皿うどん」といった風情をかもしだしていた。その時代の日本にドラマというものすらあったかどうか定かではないが、あったとすれば、スパゲティは子供が口のまわりをベトベトにしながら食べる物として、家庭の風景の中に映っていたと思われる。
またその頃は、町の喫茶店でもスパゲティを供していたが、それはサラリーマンの腹ふさぎとしての役目をになっていた。もしかしたら大昔の刑事ドラマとかには、聞き込みをする刑事の背景にナポリタンをもそもそ食べるサラリーマンの姿が映っていたかもしれない。こんにち、イタリア料理店とカフェの台頭により、このようなメニューを出す喫茶店は衰退し、今ではドラマにおいても「カバチタレ!」の中にその面影をとどめるのみである。が、そういう喫茶店に必ず白いブラウスの下に黒いブラジャーをつけた常盤貴子のような美人なウェイトレスがいる、かどうかは保証の限りではない。
その後、日本が正式にイタリア料理ブームを迎える前に、もうひとつのスパゲティが日本に紹介された。ミートソースとナポリタンに続く第三の波、ボンゴレである。トマトソースベースの初代スパゲティと違い、ボンゴレは魚介類好きの日本人の口に合い、またたくまに普及して、三大スパゲティのひとつとして定着した。嘉門達夫が「明かりをつけましょぼんぼりに♪」の替え歌として「あさりを入れましょボンゴレに♪」と歌ったことからも、その定着ぶりが如実にうかがいしれたのである。
さらにその後、俗にいうイタめしブームの到来によって、今我々がイタリアンレストランで食すような様々な次世代スパゲティが、若者を中心とする世代に普及することとなる。そして、おしゃれなトレンディドラマにも、そんなスパゲティが登場することになるわけだ。が、その話はまた次回に。
(つづく)
2001.2.28 ドラマとスパゲティ Part2
バブルとともに巻き起こったイタめしブーム。それは、ミートソースとナポリタンとボンゴレしかなかった日本に様々な次世代スパゲティをもたらした。この頃から、スパゲティを含むイタリアの小麦粉製品はパスタと呼ばれるようになった。が、流行好きな芸能人が「私パスタには目がなくって」とか言うのを聞いて、「ベトベトに甘いナポリタンを食べて育ったくせに、なにがパスタだバカヤロ」とか思ったのは私だけではないはずだ。
そんなパスタことスパゲティは、当然おしゃれなトレンディドラマにも登場するようになった。けど、ラーメンばかり食べている主役カップルの場面には出番がなく、主役ではないカップルのデートの場面に出てくることが多かった。しかも、「魔女の条件」の松嶋菜々子&別所哲也(=菜々子先生はベッシーをふって教え子のタッキーと駆け落ちしてしまう)や、「ロンバケ」の松たか子&竹野内豊(=お嬢様と野獣の組み合わせだったため話が合わなくなって別れてしまう)といったカップルのように、ややよそよそしい間柄であることを表わす小道具としてスパゲティは使われたのである。

しかし、それゆえに、スパゲティは女優たちの口に入ることはめったになかった。なぜなら、スパゲティは口にしたとたん下世話に成り下がる食べ物だからだ。いくらおしゃれなイメージになっても、ぞーぞーと音をたててすすってしまったり、口のまわりがベトベトになるのは、ミートソースやナポリタンの時代と変わるわけがないんである。
よって、ドラマでは、クルクルとフォークで巻き取るしぐさや、大皿から小皿へ取りわける動作だけが映されたり、あるいは具だけを口に入れるなど「いかにしてスパゲティを食べずにすますか」というごまかしワザが横行していた。そして、そんなのを見るたびに、なーはるは「こらっ菜々子!取りわけるだけでごまかすなっ!」「こらーっ松たか!具だけつつくなっ!具だけ!」と怒鳴っていたのだった。なぜって、なーはるはイタリア料理研究家だから。(しつこいっての)
そんなスパゲティに活路を開いたのは「お見合い結婚」であった。このドラマは、それまでの、スパゲティ→おしゃれなイタめし→おデート→女優が食べる(ふりをする)、という路線をきっぱり捨てて、脇役のブ男に思いっきりスパゲティを食べさせたのだ。ラグビー部出身のワイルド系ブ男の今井雅之が、さとう珠緒にふられてスパゲティをヤケ食いする姿(=食べる前に粉チーズの缶を両手にもって大量にかけるのがポイント)はたいへん滑稽で、スパゲティは笑いのとれる食べ物として一躍脚光を浴びた、かどうかはともかく、今井さんの食べっぷりは大評判になったのである。
これ以降、ドラマにおけるスパゲティの使われ方は、すっかり肩の力が抜けたものになった。「HERO」のキムタクも口のまわりをベトベトにしながらカメラ目線でスパゲティを食べて女性ファンの母性本能をくすぐろうとしたし(私はひっかからなかったが)、逆に「やまとなでしこ」では、合コンの場面に1度もスパゲティを登場させないことで「スパゲティなんて全然おハイソじゃなくってよ。オホホホ。 by 桜子」という気分を漂わせていた。
そしてつい最近、さらにスパゲティのこなれた使い方を見せてくれたのは「ストロベリー・オンザ・ショートケーキ」である。
「S.O.S.」第5話で、石田ゆり子の婚約者(榊原利彦)は、ゆり子先生と教え子の窪塚洋介くんの仲を疑って、窪塚くんをレストランに呼び出した。「先生と君はどんな関係だったのかな?」などと聞く榊原は、なんとスパゲティを食べている。これから結婚しようという女性についての大事な話の最中にスパゲティ、それもよりによってトマトソース系!この男の小太りな体に図々しさや厚かましさが詰まってるのがわかるというものだ。
しかし窪塚くんが「何もありません」と答えると、「そうだよね〜アハッ」と顔をほころばせてスパゲティをぱくつく姿はかなりマヌケ。でも窪塚くんが帰ろうとすると、あわてて紙ナプキンで口のまわりのベトベトを拭って「彼女には内緒に・・」と釘を指すところなんかは抜け目がない。でもって肝心なことは、この男はゆり子先生のことをちっとも愛してないらしいってことだ。
てなぐあいに、スパゲティひとつでこんなに多くのことを語らせた「S.O.S.」。スパゲティ冥利につきるではありませんか。イタめしブームから10年たって、やっと日本人もオリーブオイルのきいた本場仕込みのスパゲティをうまく消化できるようになったようだ。スパゲティをおしゃれでありがたいものとしてデートの場面に登場させたドラマがスパゲティの元禄文化だったとすると、今ようやくスパゲティのワビ・サビを知る化政文化の時代に入ったわけである。(またそんなデタラメを)
(おわり)